「アニマル・ウェルフェア」という言葉を聞いたことがありますか?
日本語で「動物の福祉」と訳されていることもあります。

簡単にまとめると、動物目線を持って、動物がストレスなく快適に過ごせるようにお世話しましょう、という国際基準の考え方です。
もちろん日本も国として取り組んでいます。
私たち動物取扱業者を対象とした法定研修があるのですが、今回のテーマもこの「アニマル・ウェルフェア」でした。
ペットだけでなく、産業動物などにも幅広く適用されるものですが、ここからは犬のこととして書いていきます。

アニマル・ウェルフェアを実現するために、具体的には「5つの自由(Five freedoms)」を守ってあげることが求められています。
日本語としては「自由」というより「解放」と訳した方がしっくりくるものもありますね。

① のどの渇きや飢えからの解放(Freedom from thirst and hunger)
… お水は給水ボトルだけでは不十分ですから、器にもたっぷり入れてあげましょう。食事はその子に合ったものを「適量」。肥満もNGです。

② 不快からの解放(Freedom from discomfort)
… その子にとって安心で快適な環境を用意してあげましょう。(自由に動ける広さ、温度、湿度、騒音、明るさ、などの程度もチェック!)

③ 痛み、ケガ、病気からの解放(Freedom from pain, injury, and disease)
… 必要に応じて獣医さんに診てもらいましょう。病気を予防するためのワクチンやお薬も忘れずに。

④ 犬として自然な行動をする自由(Freedom to express most normal behavior)
… あとで書きます

⑤ 恐怖や苦しみからの解放(Freedom from fear and distress)
… あとで書きます

更にわかりやすくまとめたものが、環境省のHPにありました↓

文字が小さくて見えにくいようなら、環境省HPに直接アクセスしてみて下さい。

さてさて、さきほど後回しにした④と⑤は、しつけ・トレーニングにも関わってくることです。

④の「犬として自然な行動」はというと、
かじる、かむ、くわえる、吠える、走る、掘る、唸る、したいところに排泄する、などなど。
考えてみると、皆さんのお困りごとにつながるものが多いですね。
しかし反面、犬としては異常な行動ではなく、犬が犬である限り状況に応じて自然と発現する行動です。
それを無理にやめさせる、全くやらせない、というのは、アニマル・ウェルフェアの理念に反します。

犬としての自然な行動に、人間が「問題行動」と名づけてしまうことがそもそもの問題。
犬と人間という異種の動物が一緒に暮らすことで見えてくる当たり前の違いに、みなさん困っているだけなのです。
人間だって、田舎から出たことのない姑と、都会育ちの嫁が一つ屋根の下に暮らしたら、いろいろ問題が出てきますよね。
それで映画やドラマができちゃうほどです。

しかしその一方で、犬にやりたい放題させておくと、今度はこちらがストレスでいっぱいになってしまいます。
一緒に暮らす以上、犬にも私たち人間との生活に馴染んでいってもらう必要があるでしょう。

そこで大切なのは『双方の歩み寄り』。
教えられることをわかりやすく教え、環境を整え、「折り合い」のつけどころを探すのは人間の役目です。
噛んで良いものを与え、排泄する場所を教え(排泄しやすい環境を用意してあげることが前提です)、走る機会を与え、吠える代わりにやってほしいことを教え、唸らなくてすむように接してあげる・・・そうこうしているうちにだんだんと一緒の生活が丸くおさまっていくのです。

⑤の恐怖や苦しみは、図らずもしつけやトレーニングの過程で、自分自身が与えてしまうことがあります。
いうことをきかせよう、服従させよう、バカにされてはいけない、人間の方が偉いんだ、うまくいかないのは犬のせいだ、歯向かうなんて許さない、という気持ちを持ってしつけにあたると、どうしてもそのようになってしまいがちです。

自分は「犬のため」と思って厳しく接していたとしても、○○ハラスメントと同じで、肝心なのは受け手の受け取り方。
そのうえ相手は言葉が通じない犬。
「さっきはついカッとなってゴメン」とか「あなたの将来のために心を鬼にしてやっているのよ」と言ったところで伝わりません。

「悪いことをしたら叱りたい」という方が多いですが、そもそも「悪い」というのは片側の価値観でしかありません。
それなのに「しつけ」名目で、怒鳴ったり、ぶったりして「叱る」のはどうでしょう?
犬は当たり前のことをしているだけですから、どうしてそんな目に合うのか理解できません。
目の前の人間を、気分屋で何をするかわからない凶暴な動物だと思ってしまっても仕方ないでしょう。
その結果、恐ろしい相手から自分の身を守らなくては!と必死になって、攻撃的な行動を取る犬もいます。
これでは、犬にとっても心休まることのない、アニマル・ウェルフェアから遠くかけ離れた毎日になってしまいます。

わんちゃんとの暮らしの中で、お世話の仕方、接し方、しつけの方法、に迷うこともあるでしょう。
そんなときは是非、このアニマル・ウェルフェアの理念を思い出してみてください。
そうすれば大切な土台がぶれることがありませんから、その上にわんちゃんとの良い関係を築いていけるはずです。