私が初めて「自分の犬」として迎えたのは、市の「不要犬回収所」に持ち込まれた子犬でした。
まだとても小さく、体にはノミがたくさんついていました。
当時はパピークラスや家庭犬のしつけ方を教えてくれるところが見当たらず、知識の乏しかった私は、どこぞの訓練士さんが書いた本を買って参考にしました。
家に慣れて元気になったその子犬は、帰宅時などにピョンピョン飛びつくようになりました。
とても嬉しそうに。
しかしその本には「飛びつきはいけないことである」と書いてあります。
上下関係とか、服従とか、そんな文言が並んでいたと記憶しています。
本には「飛びついたらキャンと言うまで前足を強く握るように」と書いてありました。
可愛いうちの子が悪い子になったら大変!と思った私は、その通りのことを2~3回やってみました。
それでうまくいくケースもあるのかも知れませんが、私と私の犬にとっては、それが大きな失敗でした。
そもそもピョンピョンお出迎えされても困ってもいなかったのに…。
さてさて、どうなったと思いますか?
その子は人に前足を持たれることを嫌がるようになりました。
「飛びついてはいけない」ではなく、「人に前足を持たれてはいけない」と学んだのです。
「お手」を教えても、前足が人の手に触れない空中で止めます。
飛びついてはヒラリと逃げるようになりました。
そして何より、足ふきや爪切りで唸ったり歯を当てるようになりました。
こうなると日常生活にも支障が出てしまいます。
その後、その失敗をリカバーするのに長い時間がかかりました。
もう2度と痛いことはしない、あなたの足は大切に優しく扱うよ、ということを伝え続け、完全に信用してもらうまで、「たった2~3回」の何十倍もの時間がかかったのです。
現在では「好ましい行動を褒めて強化する」トレーニングが主流になりましたが、いまだに「痛みや恐怖で罰する」方法も少なからず見受けられます。
テレビ番組、本やネット、先輩飼い主さんなどから、そういったやり方を得たとき、それをやったら愛犬と自分の関係はどうなるか?
愛犬は何を学ぶ可能性があるのか?
自分は本当にそのやり方を実践したいのか?
是非立ち止まって考えてみて下さい。
愛犬のために、より良いしつけの方法を選択することが、飼い主さんの役目です。
たとえば、飛びついて欲しくなかったら、飛びついていない状態を褒めたり、オスワリで待つことを教えるなど、平和的な方法は他にいくつもあるのです。
「言うことをきかせたい」のは人間の都合。
「しつけ」は、人間の都合のためだけにあるのではなく、わんちゃんが安心して幸せに暮らすためのものでもあると、私は思っています。